Crude Crime act4 大切なもの
出立してから何時間経っただろうか。
運転手はすぐに佐夷から一夜に替わり、だんだん日も傾いてきた。
「何 そこで普通革命する!!?」
「いやあの・・カードがいっぱいあるので・・ごめんなさい。」
「コトコは悪くないよ〜 はい、革命返し。」
「Per・・!!あなどれねぇ」
「うーそのまま革命されれば私が勝ったのに〜」
後部座席では4人が楽しそうに『大貧民』をしている。
「あ〜〜!!!俺も大貧民やりてぇよ〜〜!!」
「じゃああと一キロで運転替わる。」
「マジか佐夷!?よっしゃー!!」
さっきまで怖いと言っていた真莉が嘘のようにはしゃいでいるので、琴子は安心した。
「やった!俺大富ご・・」
「みんな、 いるよ。」
佐夷の言葉を止めたのはPerだった。
「あと5キロでいる。人数は30人ぐらい。」
「30人なら楽勝だな」
琴子は勿論Perの言っている意味が分からなかった。
「真莉さん・・いるって何が?」
「ん?敵よ」
「敵!!?」
思いもよらなかった言葉に琴子は素っとん狂な声をあげた。
「だーいじょうぶだって。一夜の後ろかその辺に隠れてれば安全だから。」
「で、でも・・もし見つかって攻撃されたら?」
「・・・・・ガンバ!」
「そんな〜〜〜〜・・」
琴子は絶望の淵に立たされたような気分になった。
「琴子は俺が絶対守るから平気だよ。」
「一夜さん・・マジでほんとにお願いします。」
約5キロ先には兵隊らしきものがあった。
しかし彼らの目には生気がない。
「あれは・・人間ですか?」
「いや、人造兵士だ。生身の人間を改造したものだと聞いている。」
兵隊が次々とこちらに向かってくる。
琴子は顔から冷や汗が流れた。
「さっ とっとと片付けちゃいますかね」
一夜はそう言うと琴子の手をひいて車を降りた。
「あー・・だるい」
「準備体操にはいいじゃない」
「・・怖く、ないんですか・・?」
「そんな感情、当の昔に捨てたな」
佐夷は何の意味も込めずにさらっと言ってのけた。
「ははは、確かにな。」
一夜も笑っている。
誰も緊張感を持っていない。
兵隊たちが刀を構えた。
しかしそれにも全く恐怖を感じない4人。
琴子は4人が少し怖くなった。4人が『エージェント』と呼ばれている理由が分かった気がした。
「一夜、いつものいくぞ」
「オッケー総帥。」
佐夷はそう言うと一夜の後ろに下がった。
「琴子も下がった方がいい」
「あ、はい・・」
「 チェーンレベル1 残雪 」
一夜がそう言うと10人の兵士が、チェーンで締め付けられながら氷漬けになった。
もちろん兵士は身動きができない。
「あぁ寒い!!俺の技使うと寒くなるから嫌だ!!!」
ぶるぶる震える一夜を見て佐夷が笑う。
「上出来だ。」
佐夷はにやりと笑みを浮かべながら、氷漬けになった兵士を片っ端からドロップキックして破壊していった。
「今日のキックもなかなか調子いいな、佐夷」
「まあな」
あっという間に佐夷は10人の兵士を破壊してしまった。
「すごい・・二人とも・・」
琴子は思わず呟いた。
ふと真莉の方を見ると、一人の兵士が真莉を守るかのように他の兵士達を攻撃していた。
「真莉は相変わらず順調そうだな。」
「・・えっ!?兵士が真莉さんを守ってる・・?」
「違うさ、琴子。真莉の手を見てみ。」
真莉の手を見ると、わずかに兵士の動きに合わせて動いていた。
「兵士を操っているの・・?」
「そ。真莉は、世界でたった一人しか存在しない人形師なのさ。」
「あーもうこの兵士動かなくなっちゃった。Per、あと何人?」
「これで終わり。」
Perはそう言うと兵士の身体に手を当てた。
すぐさま兵士は原型を留めずに内側から爆発していった。
5分もしないうちにあっという間に兵隊は全滅してしまった。
「うーん準備体操にしては、ちょっと物足りないかも。」
「あっという間だったからなぁ」
真莉と一夜は伸びとあくびをしながら車の方へ戻っていった。
それに続いて佐夷とPerも戻る。
「!!・・琴子、大丈夫!?攻撃されなかった?」
「真莉さん、私なら大丈夫です」
「よかった〜〜 一夜、ちゃんと琴子を守ったのね。」
「当たり前じゃねぇか!!琴子は俺らの大切なものなんだから」
『大切なもの』・・・?
「私は・・皆さんの『大切なもの』なんですか・・?」
「当たり前だろう、琴子」
「そうよ、当たり前すぎ。」
「琴子は俺の癒し系アイドルだもんな。」
「コトコ、好き〜」
ぽろっ
私の中が急に熱くなって、涙が出てきた。
「ちょっ・・何!!?どうかしたの琴子!?」
「俺、変なこと言ったか・・!?」
「ち、ちが・・うんで・・す」
「?」
「私・・他人にそんなこと言われたの初めてだから・・・」
「え?」
「私・・いつもいつも他人の足をひっぱることしかしなかった。
そんな私をいつも周りの人は『邪魔者だ』と言った・・けど・・・」
「私は皆さんの場所に居れてよかった」
「琴子・・・」
辺りがしんと静まった。
「あっ ごめんなさい。私だけ一人感極まって泣いちゃっ・・」
佐夷が琴子の言葉を制するかのように、ぎゅっと琴子を抱きしめた。
「琴子、大好きだよ。」
「・・・佐夷くん、ありがとう。」
「あ〜〜ずるい!!俺も琴子ぎゅーしてぇ!!」
「佐夷ばっかりずるいわ!私も!ねぇPer!?」
「うん。みんなでぎゅーしようよ。」
「み、みなさん・・ちょっと苦しいです・・うぅ」
「一夜、邪魔だからどけよ」
「やーなこった!佐夷がどけば?」
「私・・・初めて人を抱きしめた・・。」
「あ、俺も。」
「わたしも〜」
空は晴れ晴れとした綺麗な青空。
一人の少女の影に大きな塊が重なって、ゆっくり時間が過ぎていった。
「生きてて・・よかった・・・」
「何か言ったか琴子?」
「あっ えっと、そろそろ出発しなきゃ宿が確保できないかもなぁって。」
「そうだったな。どっかいいとこあればいいんだが」
辺りはまだ整備されていない道路の真ん中。
人っ子一人通らない道だった。
「やっべ 早く宿確保しねぇと!!みんな乗って!!」
「琴子もほら!置いていかれるぞ」
「はい!!」
私の手を取ってくれる人がここにいる限り
私はきっと、歩いて行ける
いつか思ったこの感じ。
私はもう一人じゃないんだ。泣かなくていいんだ。
泣きたい時は、この人たちと泣いてもいいんだ。
初めてに本当に歩き出せたような感じがした。
++++
あれから何時間かまた走って、やっと一つ宿屋が見つかった。
「ギリで宿とれてよかったな。2つしか部屋ないけど。」
「真莉とPerと琴子、俺と佐夷で部屋割りいいよな?真莉とPerと琴子3人いるからちょっと狭くなるけど。ごめんな、琴子」
「全然大丈夫です。部屋がとれてよかったですね。」
「なんか、修学旅行みたい♪私、テンション上がってきちゃった!」
「うるさいぞ真莉」
「っ・・! いいじゃないはしゃいだって」
「お前は阿呆か。修学旅行みたいな軽いノリじゃねえんだよ」
今にも二人が口論しそうな重い空気になる。
「おい・・やめろよ。二人とも・・」
「一夜は黙ってろ」
もはや一夜が仲裁に入る余地もなかった。
琴子もどうしていいか分からず目を白黒している。
「だいたいなぁ、朝と態度が180度違うとこが気に入らねぇんだ。
旅が怖いだとか抜かしておいて今じゃこのテンション。イライラする。」
「気持ちが・・変わったのよ」
「へぇ。お前の気持ちは女々しい秋の空のようだな。」
「女々しいってなによ」
「もう止めてください!!!」
皆の注目が琴子に向けられた。
「喧嘩は、よくないです。私は喧嘩している佐夷くんや真莉さんは見たくないです。」
「悪かったな・・琴子」
そう言うと佐夷は半ば急ぎ足で自分の部屋へと行ってしまった。
「待てよ佐夷!」
一夜も佐夷を追いかけてその場から去った。
「琴子・・ごめんなさい。」
「・・・よく、喧嘩するんですか?佐夷くんと。」
琴子から予想外の言葉を発せられて、真莉は少し困惑する。
心臓を槍でつつかれているような気分になった。
「そうね・・。結構喧嘩するかもしれない。」
「そうなんですか・・。」
「でも、佐夷は悪い人じゃないわ。優しい人よ。いつも私が悪いの。」
「そんなことないです。って私が言える立場じゃないけど・・」
「ありがとう琴子。」
「あ、部屋についたみたいですね」
3人は自分達の部屋に入った。
++++
「佐夷、真莉にあんまり強く当たるなよ」
「・・・・。」
風呂あがりの濡れた髪を拭きながら佐夷は黙っている。
しばらくして、やっと重い口を開いた。
「真莉を見てると・・自分を見てるような気がするんだ」
「・・どんな所が?」
「旅が怖いと言うとことか・・ついはしゃいでしまうとことか・・」
「佐夷も旅が怖いのか?」
「怖かねぇ。だが・・気持ちは分かる。そしてそれを忘れようとはしゃぐフリしてるのも分かる。
それを見るとつい、自分の心の深いとこがさらけ出されてるような気がして余計に苛つくんだ。」
「へぇ。成る程ね。」
「俺は・・・」
「二人でいる時は『俺』じゃなくて『あたし』、だろ?」
「別にいいじゃんか・・あたしは・・いつも真莉にひどいこと言ってる。けど謝りたいのに謝れない。」
「ひと思いに謝っちまえばいいじゃん。『ごめん』って。そしたら真莉も絶対許してくれるよ。」
「そうか・・?」
一夜は佐夷をじっと見つめていた。
佐夷はすぐそれに気づき、やめろよと言ったが一向にやめる気配はない。
「何見てんだよ・・」
「いやなんとなく」
「一夜、お前風呂は入らないのか?」
「おっと!!忘れてた。入るか。」
そう言うと一夜は半ば慌てた様子でバスルームに入っていった。
「さて・・一夜がいないうちに胸の包帯取り替えるか」
佐夷は服を脱いだ。上半身の3分の2が包帯に包まれている。
しかし特に怪我をしている訳ではない。
「また胸でかくなったかなぁ・・」
そう言って包帯を取ると、そこには小さな胸の膨らみがあった。
「一夜には悪いけど、やっぱ男に生まれたかったな」
佐夷は包帯を胸にきつく縛ると、服を着て布団に入った。
(・・包帯取り替えてちゃ忘れ物も取りに行けねぇじゃんか佐夷・・あ、もう終わったか?)
一夜はバスルームの扉ごしに見える佐夷をなるべく見ないようにしていた。
++++
琴子と真莉とPerは、既に風呂に入り電気を消してベッドの上に横になっていた。
「真莉さん」
辺りは先刻まで口論していた状況とは逆に静まりかえっている。
(寝ちゃったかな・・)
「ねぇ、なんで琴子はこの旅についていこうとしたの?」
「!(あっ起きてたんだ・・) そうですね・・」
「真実を知る為についていこうと思いました。」
「真実?」
「はい」
「どういうこと?」
琴子は暗闇の中で困ったような表情をうかべた。
「この世界ついての真実です。
・・・っていうのはこじつけで、実際は自分でもよく分からないんですけどね。」
「ねぇ、琴子のお父さんとお母さんはどんな人だったの?」
「私が小さいときから忙しくてあんまり構ってもらえなかったけど・・優しかったです。
いくら忙しくても、夕食だけは一緒に食べていました。あの時間が私の一日の中で一番好きでした。
父と母は薬師をしていて、たぶん危険な仕事にも手を出していたと思います。」
「そっか・・・」
「真莉さんは?」
琴子は聞いてもいいか一瞬ためらったが、思い切って聞いてみた。
「私?」
「あ、あの・・聞いてはいけないことだったでしょうか・・?」
「ううん、いいのよ。私はね―――」
「父は元からいなくて、母子家庭だった。
母が人形師の家系だったみたいで、私は小さい時から人形師になるための特訓の日々を送ってたわ。
この紅い目も母親ゆずり。」
「そうなんですか」
「でも、ある日西軍が母を連れて行ってしまった。消息はエージェントの私でも分からないの。
たぶん・・死んだと思う。」
「なんで西軍は真莉さんのお母さんを?」
「人形師の技は危険なのよ。古来から、戦争を左右してきたのは人形師だとも言われてるみたい。
人形師を自分の軍に入れてれば有利だしね。でも・・母は戦争の為に人形師の技を使うことは嫌がってたから・・・
だから殺されたと思うわ。連れて行かれた時、私は死にたかった。」
「そう・・ですか・・」
私だけじゃなくて、真莉さんも死にたいときがあったのか、と琴子は思った。
「でもね―――」
ダダダダダダダダ
真莉が何かを言おうとした瞬間にそれは起きた。
窓硝子は割れ、破片が辺り一面に飛び散った。
琴子は一瞬頭が真っ白になったが、マシンガンか何かで攻撃されたということだけは分かった。
「まっ 真莉さん!!Perちゃん!!」
返事は無く、辺りはしんとしている。
「そんなっ 嫌だ!!真莉さん!!Perちゃん!!」
Next act…