いなくならないで

Crude Crime 番外編

 

 

「一夜はいつも食べるの速いよね。」

「そうか?」

夕食後のおきまりの会話。

一夜が早いというより、観月が少し遅いのだ。

一夜は観月に合わせて食べようとするが、いつもできない。

それに遅く食べれば二人の時間がもっと長くなるのに――――

 

でも何を話せばいいのか分からないので結局早食いになってしまう。

 

 

「もう寝るの?」

「寝ない。本読む。」

「私がこの前貸した本、もう読んだ?」

「読んだよ。今返すから。」

「あ、じゃあ私も次に貸したい本あるからそれと交換でいい?

 今持ってくる!」

そう言うと一夜と観月は自分の部屋に戻った。

一夜は本棚から一冊の本を取り出し、最後の部分をもう一度読みながら、しばらく部屋にいた。

そのうち観月が自分の部屋にやってくるだろう。

それがいつものことだった。

 

 

 

 

(えっと・・この本だよね・・)

観月が背伸びして本棚から一冊の本を取った。

すると突然背後から観月の口に手が伸びる。

観月は思わず小さく声が漏れた。

「声を出すな。出すと痛い目に遭うぞ。」

その声の主は身長がかなりある図体のでかい男だった。

観月がじたばたと抵抗しても無駄だった。

男はひょいと観月を抱きかかえると、急ぎ足で観月の部屋から出ていった。

(一夜・・助けて・・!!!)

 

 

「観月?」

一夜は観月に呼ばれた気がして、慌てて観月の部屋へ行った。

コンコン、とドアをノックしても返事がない。

「観月?いるのか? 入るぞ」

一夜は部屋に入ったが、観月はいなかった。

足元には一冊の本が落ちている。

 

「ちょっ・・どこ行ったんだ!!?」

どこを探しても観月は見当たらない。

他の兵士に聞いても全員が口を揃えて知らないと言う。

「いなくなるなよ・・!!」

一夜の中は不安の闇でいっぱいになった。

 

(一夜!!)

 

 

また一夜は観月に呼ばれた気がした。

一夜はまだ探してなかった備品倉庫へと向かった。

(こんなとこ・・まさかいるわけが・・)

そう思って入ると

 

 

そこには観月と男が3人いた。

「一夜ぁ!!!」

途端に観月が泣き叫んだ。

服はびりびりに破かれ、胸がはだけている。

「ん?なんだ、このガキ・・」

「観月を離せ!!!」

一夜が倉庫に入ってきても、男たちは動じない。

「おい坊や、俺たちはこれから“お楽しみ”をするところなんだ。

今見たのは忘れて、大人しく帰ってくれ。」

「観月になんてことするんだ!!離せ!!!」

一夜も男の迫力に動じなかった。

「どうする?このガキ・・」

「ロープで縛り付けるか」

一人の男がそう言うと一夜に近づいていった。

「待て。俺は器の能力を持ってる。それ以上俺に近づくと痛い目みるぞ」

「お前みたいなチビガキに何ができる?」

男が一夜を縛ろうとしたその瞬間―――――

 

 

「チェーンレベル1 残雪」

 

 

男はみるみるうちに全身が巨大な氷の塊に包まれた。

「俺は何もできないチビガキじゃねえよ」

 

「なっ・・こいつ、マジで器の能力者・・!!?」

「おいやべーよ、どうする!?」

「・・確か、器にはそれを媒介とするものがあったよな。それさえ取っちまえば・・」

 

「何ガタガタぬかしてんだよ。早く観月を離せ。じゃないとお前たちも凍り漬けにするぞ」

「いいのか〜?そうしたら、このガキを素っ裸にすんぜ」

「!! やめろ!!!」

「じゃあ媒介の物、出しな。」

一夜は一瞬躊躇ったが、すぐに媒介であるチェーンを床に落とし、蹴って男たちの方へ向けた。

「これでいいか?」

「ハハハハ 器の能力者も媒介がないとこのザマだ!何もできないチビガキになりやがった!!」

 

男たちが笑っている隙をついて、一夜は観月に「フェニックス」と合図した。

 

(あっ そうか・・何やってんだろう、私・・)

 

 

 

 

「フェニックス・ブレイズ 炎よ汝らに燃え広がれ」

 

 

 

あっという間に男たちの背中に火が燃え広がった。

「あっちちちち!!!熱い〜〜〜!!!」

「こ、こいつも器だったのか!!?」

「熱いなら冷ましてやるよ」

一夜はチェーンを拾うと、男たちを凍り漬けにした。

 

「観月、ごめんな。俺が気づかなかったから・・・」

「・・・・・。」

「ほら上着。部屋まで送るよ。」

「・・・・ぃぃ

「え?」

「助けてくれてありがとう」

そう言うと観月は倉庫から飛び出て行った。

 

 

 

「俺・・なんかしたかなぁ?」

 

 

 

 

そこにはやり場のない気持ちを抱いた一夜だけが残った。















Next.....