たったそれだけのことでも幸せに感じてしまう。

Crude Crime 番外編

 

 

 

俺は吹雪の中、ここに捨てられた。

 

 

親の愛情に一度も触れたことがない。

一時期は親を憎み、夜ベッドで泣いたこともあった。

けど、そんなことをしても親は戻ってこない。そう悟った時、やっと泣き止んだ。

そして俺と同じ境遇の人に出会った。

その人の名は――――

 

 

 

 

観月(みづき)っ!!」

そう呼ばれたのは黒い髪に黒い瞳を持つ一人の少女だった。

「一夜」

少女はにっこりと微笑みながら、一夜に近づいていった。

「任務終わったのか?」

「ええ、そうよ」

「怪我はないか?」

「ないよ」

「よかった・・・」

一夜はぜえぜえと息をついた。かなり遠くから走ってきたからだ。

観月は遠くから見ても目立つ。可愛いからなんて言ったら馬鹿にされるだろうか。

「ふふ、そんなに息つくまで走ってこなくても私は逃げないよ?」

「なんか・・条件反射?観月を見つけたら走りたくなる」

「変なの」

そう言ってまた少女はくすくすと笑った。

「今日も、いつもの観月だね。」

「え?」

「俺の大好きな観月だ。」

「今日も私の大好きな一夜ね」

観月がそう言うと、一夜は顔が真っ赤になった。

「私、橋本さんに今日の任務の報告へ行かなきゃいけないから・・ごめんね」

「え、あ・・あぁ。じゃあまた後でな。」

 

俺は観月が好きだった。本当に大好きだった。

それは友達としてではなかった。初恋だった。

まだ俺は12歳だけど・・。

 

観月の言う俺に対しての『大好き』は、何なのだろうか?

友達としての感覚?それとも・・恋人のような感覚?

それについて俺は毎晩頭を悩ませていた。

 

 

++++

 

 

 

夕食の時間。

俺は毎日観月と一緒に食べる。

まるで自分の彼女のように。俺は、たったそれだけのことでも幸せに感じていた。

 

観月は俺以外の人とは食べたことはなかった。

たぶん、観月と同じ年頃の人間はこの組織の中で俺だけだったからだろう。

 

「観月はさ、可愛いよな」

「えっ」

一夜の突然の言葉に観月は驚いた。

「なっ・・何・・いきなり」

「いや、思っただけ」

観月は顔を赤くして、震える指でスプーンを口へと運ぶ。

「私なんか、可愛くないよ。」

「どうして?」

観月は自分の両手を眺めた。

「任務の度にこの手で人を殺してるから。」

「そんなの俺だってそうじゃないか。」

「任務の時に、ふと割れた鏡の破片で私を見たの。そしたら・・」

 

「すっごいブスだった」

 

「人を殺してる時に綺麗な顔の奴なんていないさ」

「ほんと?」

「そうだよ」

 

「俺、それでも観月のこと好きだけどな」

そう言うと一夜は食べたものをのせたトレーを返しに立ち上がった。

「あっ一夜、待って!」

観月は慌てて一夜の後を追った。

 

 

 

 

 

 

「・・今夜はあのガキにするか」

「少し小さすぎやしねぇか」

「いやでも、悪かねぇよなぁ」

 

 

 

汚い男たちが観月を見ながら舌なめずりをした。











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